2018

小さい頃、おばあちゃんから聞いた話。

おばあちゃんが学生だった頃、海で何か用事をしている時に津波にあったそうだ。波に追いかけられて、線路を越えて、山へ逃げた、もうちょっとで危なかった、友達と二人で逃げ切った、と話してくれた。波が引いた後の潮だまりには、牛が浮いていたり、人が浮いていたりした、とも教えてくれた。

話を聞いた時、私はまだ須崎に行ったことがなくて、その話を頭の中に描いたまま置いておいた。

 

一昨年、20年程の時を跨いで、私は須崎の地を踏むことになった。実際に歩いた須崎の街には海の脇に本当に線路があり、近くに山があった。それまでの私は、時々おばあちゃんの話を夢で思い出しては、そんなに海の側に線路があるわけがないと思っていた。なのに、目の前に本当にそれがあることにびっくりした。少し乾いた空の色や、おばあちゃんが説明してくれた通りの、家のすぐ横を走る線路。

おばあちゃんから聞いた話は私の曖昧な記憶の話で、はっきりしたことは分からない。

けれど、違う時間それぞれにおばあちゃんが見たもの、私が見たもの。

 

それは何かとても悲しい気がして、私は誰かに言うこともなくなんとなく思っていたことだった。言いはしないけれども、私にはいくつかの像として浮かんできたものがあった。それは、今までのことと、これからのことと両方でもあると感じられた。

今の街に至る人の積み重ねと今までいた人のことでもあるし、本当の今に生きている人のことでもあると言えるのだと思う。

 

 

岸辺

 

 

陶、シリコン、灰、砂

更衣室境界の壁にはめ込まれた鏡に左右対称になるように陶で製作したものを設置。向かい合わせにとり付けられた一対が、元は一個の固体を為していた。

 

場所:錦湯跡地(高知県須崎市)

 

ー「新錦湯物語」現代地方譚5